平成18年憲法 成績C(自己評価A) 第1問 

第 1 問
 国会は,主に午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が,多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由から,この時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限するとともに,この制限に違反して広告放送を行った場合には当該放送事業者の放送免許を取り消す旨の法律を制定した。この結果,放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円の減収が見込まれている。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(出題趣旨)
 本問は,放送事業者の広告放送の自由を制約する法律が制定されたという仮定の事案について,営利的表現の自由の保障根拠や放送という媒体の特性を踏まえて,その合憲性審査基準を検討し,当該事案に適用するとともに,放送事業者に生じうる損害に対する賠償ないし補償の可能性をも検討し,これらを論理的に記述できるかどうかを問うものである。


1 本問法律により、放送事業者は減収の危険、免許取消の危険にさらされる。
 そこで、本問法律は放送事業者の放送の自由を侵害し、違憲ではないか検討する。
1)まず、放送の自由は何条により保障されるか。
たしかに、放送により収入を得るという側面があるため、営業の自由を保障した22条1項により保障されるともいいうる。
しかし、放送の自由は、放送事業者の意見を公に明らかにして立憲民主主義を発展させる側面や、意見を明らかにすることで放送事業者の精神活動を向上させる側面を持つ。
そうすると、自己実現、自己統治の価値を有するので、表現の自由を保障した21条1項により保障されると解する。
2)しかし、放送の自由も無制限ではなく、人権相互の矛盾抵触を調整する「公共の福祉」(12条後段・13条後段)による制約に服する。
  本問では、視聴者の多様で質の高い放送番組へのアクセスという知る権利(21条1項参照)の実現のために制約に服する。
  では、本問法律は必要最小限の制約といえるか、違憲審査基準を検討する。
  たしかに、知る権利の重要性にかんがみれば、緩やかな制約によるべきとも思える。
  しかし、放送の自由は、表現の自由の一つであり、表現の自由は精神的自由である。
  そして、精神的自由は、経済的自由と異なり、民主政での自己回復が困難な自由である。そうだとすると、精神的自由への規制立法について裁判所は経済的自由の場合と比べて、厳格な基準で審査すべきである。そこで、厳格な基準によるべきとかんがえる。
  具体的には、①目的が重要で、②手段が必要最小限のものでなければならないと考える。
2 これを本問法律について検討する。
1) まず、本問法律の目的は視聴者の多様で質の高い放送番組へのアクセスという知る権利の実現にある。
   そうすると、本問法律により視聴者は自己の意見を形成できるようになるのだから①目的は重要といえる。
2) では、②手段は必要最小限といえるか。
 ア  たしかに、本問法律により午後6時から11時という最もテレビが見られる時間帯に広告放送が5分に制限され、放送時間が拡大することになる。そうすると目的実現のために効果的とも思える。
 イ  しかし、本問法律により、放送事業者は数十億円の減収を受けるのである。 
    そうすると、本問法律により、放送事業者の番組制作費が大幅に減少することが予測される。これにより、番組の質が低下し、かえって視聴者の質の高い番組へのアクセスが困難になる。
    また、本問法律に違反すれば、放送事業者は放送免許の取消しという大きな不利益を受ける危険が高まる。そうすると、前述の番組制作費の減少とあいまって、本問法律の適用をうけないように、質の低い番組を繰り返し放送するという事態も起こりうる。これでは、視聴者の質の高い番組へのアクセスを実現することは困難である。
    さらに、本問のような目的を実現するには、放送事業者同士による取り決め、法的効果を伴わない行政指導によることも可能である。
    それにもかかわらず、放送免許の取消しという強大な効果を伴う本問法律は、目的実現の手段としては行き過ぎであり、②必要最小限とはいえない。
3) したがって、本問法律は必要最小限の制約とはいえない。
3 よって、本問法律は放送事業者の放送の自由を侵害し、違憲である。
                                     以上
・第1印象「おお、面白そう。ん?「数十億」?財産権?」
・失敗→勝負すべき人権について、22条か21条か散々迷ったが、皆が21条で書きそうと思ったので、22条説に配慮しながら21条にした(平成12年1問参照)。
 しかし、これだけで力尽きてしまい(時間ぎりぎり)、営利的表現の自由であることを完全に忘却していた。違憲審査基準定立の部分に至るまで、「営利的」のキーワードが出ていない。「一見極めて明白に」真ん中の答案に自分から成り下がってしまった。(この時点でAは無理だろう)。
 また、数十億の部分については、国賠を書くべきだった模様(出題趣旨)。しかし、「減収が見込まれている」の記述→まだ損害は生じていない→書くことは不要と安易に判断してしまった。
・反省点→「問題文にとらわれすぎない」。すなわち、「数十億の減収」という記述を見れば、周りの受験生は国賠or損失補償を書いてくる。問題文にこだわって書かない選択を取るよりも、みんなが書きそうなことを書く、という選択をとるべき。
「人権はレベルが高い」。営利的表現の自由なんて、誰でも知っている。こういう大学生でも知っていることを確実に本試験の現場で出てくるようにする。
「守りの答案とは、書かないことではない」。

▼追記 試験委員のコメント 「20〜22点という印象、営利的表現、内容規制、放送の自由(公共性)に配慮して違憲審査基準を定立すれば、24点」「法人の人権享有主体性に配点は無いであろう。→保障されるか微妙なものであれば、書くべき」
「当てはめは考えられており、OK」
「国賠損失補償は、この問題では加点。しかし、新試験では配点があるはず。→積極的に書くべきであろう。」

▼合格者コメント 「規範定立までが抽象的すぎる 内容規制であること、放送という形態であること、営利的言論であることに配慮しつつ書くべき。自己統治、自己実現も書く→基準定率までは具体的に書く!」
「本問で検討すべきは広告=営利的表現であり、放送一般ではないので、この点で若干ピントがずれている。
また、違憲審査基準定立までの論述が薄く、書き負けている印象がある。当てはめが考えられている点、および、大きなミスが無い点で、失点が少なく、他の受験生のミスもあってのCであろう。」