平成19年新司法試験の答案を作成してみた。(民事系第1問)

まだ卒業していないので、受験はしていません。
しかし、授業の合間に答案構成をしました。
実際に答案を書いて、それを書き移すべきかとも思いましたが、二度手間なので答案構成のみにしました。
なにも参照していません。 
答案構成時間は40分なので、仮に答案を作成していたとしても、下記のようなものになっていたと思います。

今日は民事系第1問です。

実際に受験された方、予備校の答案例を検討された方、問題を読んだ方、これから検討する方、
参考にしていただき、遠慮なくコメントをください。
よろしくおねがいします。


試験問題は、

http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h19-19jisshi.html

にあります(法務省にリンク)


1 設問1 
取締役であるB1としては、募集株式発行無効確認の訴え(828条1項2号)を提起して、本件の乙に対する募集株式の発行の有効性をあらそうことが考えられる。
(1)しかし、同条は、無効原因を明示していない。そこで、いかなる場合に無効原因になるか、まず検討する。
 思うに、募集株式は、発行後は証券として第三者に転々流通することが多く、取引の安全をはかることが要請される。
 また、会社が生じた損害等については、損害賠償で填補することも可能である。
 そこで、募集株式の無効原因としては、狭く解する必要がある。
(2)本問では、募集株式差止請求(210条)の要件を満たしていた可能性がある。そこで、差止請求の要件を満たしていたのに、発行された場合に、無効原因になるか、検討する。
 ア 第三者有利発行の事案であったのに、株主総会特別決議がなかったこと(199条3項、201条1項、309条2項5号)。
 本件株式発行が第三者有利発行にあたるのであれば、株主総会特別決議を経ていないという法令違反(210条1号)があることになる。
 そこで、「特に有利な金額」(199条3項)の要件を検討する。
 思うに、新株発行の場面で、第三者が株式を引き受けやすいように、時価よりも安く価格を設定する必要があることは否定できない。
 しかし、あまりに安くすると、既存株主の利益を害する。
 そこで、発行決定時直近の平均株価から10パーセントを引いた価格であれば、「特に有利な金額」にあたらないと解する。
 本問では、平成18年6月6日までの6ヶ月間の株価の平均価格に90パーセントを掛け合わせたものである。
 そうすると、計算方法によっては、不公正になりうるが、10パーセントを超えるものではなく、「特に有利な金額」にあたらない。
 したがって、法令違反ゆえに無効原因になるということはできない。
 イ では、「著しく不公正な方法」による場合にあたり、差止請求の要件を満たしていたということはできるか。その判断方法を検討する。
 思うに、会社では、多少なりとも資金調達の目的があるのであるから、資金調達の目的がない場合というように設定することはできない。
 そこで、主要な目的は何か、という見地から決すべきと解する。
 本問では、A1は、乙社との経営統合の手段として募集株式をはこうしている。これ自体は、企業結合の手段として通常ありうるものであり、不当なものとはいえない。
 また、55パーセントの株式を引き受けさせれば、乙社から相当の資金が甲に入ってくるのであり、これは甲の収益改善につながる。
 さらに、A1はB1と経営方針で対立はしていたものの、Bの不在の隙に株式発行を決定したにすぎず、Bを排除して地位を安定させる手段として株式発行を使ったものではない。
 以上のことからすると、A1の株式発行は甲社の経営改善、収益の安定のためになされており、その目的をみても「著しく不公正な目的」とはいえない。
 ウ 以上から、差止事由にあたることはなく、これをもって無効原因ということはできない。
(3)では、募集株式の発行までの取締役会の手続に瑕疵があったことをもって、無効原因とすることはできるか。
 まず、A1は召集通知を6月4日に発し、これはB1B2に到達している。そして、取締役会は7日に開催され、これは法定の出席要件(369条1項)を満たしているし、A1A2Dの全員が賛成しているので、決議は有効に成立している(369条1項)。
 しかし、A1は、B1らが海外主張に出かけたことを利用して召集している。これは、役会が紛糾しないようにする目的からでたことにあるといえる。
 かかる目的がある場合には、役会決議に瑕疵があるとして、例外的に無効というべきとも思える。 
 しかし、新株を引き受けた乙としては、このような取締役の1人の不当な目的を認識しうるとはいえず、このような無効原因を認めると、乙の取引の安全を害する。
 また、仮にA1らが出席しても、決議は過半数で通っていた可能性が高く、決議を無効としなくてもよいといえる。
 以上により、取締役会の手続に瑕疵があったとはいえず、これをもって無効原因とはいえないと考える。
(4)よって、無効原因はなく、B1が募集株式無効確認の訴えを提起しても、請求は認められない。
2 設問2
 Y1、Y2は任務懈怠に基づく損害賠償債務を乙に対して負わないか、(423条1項)検討する。
(1)任務を懈怠について
 乙会社では、甲の株式を引受けるにあたり、資料??を参照するなどしたうえで、これを行っている。かかるY1らの措置に任務懈怠はないか、経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反(民法644条)になるのはどのような場合か、検討する。
 思うに、取締役が職務を執行するに当たり、将来の不確定な要素を考慮にいれつつ意思決定をしなければならない。
 それにも関わらず、安易に善管注意義務違反を肯定すると、取締役の経営が萎縮し、会社の運営をはかることができない。
 そこで、取締役の意思決定時において、通常の企業人がしないような不合理なことをしたような場合に限り、経営判断に誤りがあったとして、善管注意義務違反になると解する。
 本件では、資料?にあるような文書が、「研究費の大幅な低減が可能である」としたり、「開発期間が半分に短縮可能」としたり、「注通コストが削減できる」という記載をして、Yらの決定があながち不合理ではないとの結論をしている。
 しかし、資料?をすべて検討しても、Yらの計画を否定することはないが、積極的に肯定するような記載は認められない。
 そうすると、資料?の記載のみで通常の企業人がYらのような決定をするということはできない。
 そして、資料?を検討するに、CはB1の恩義をもっていままで甲で働いていたこと、Cはカリスマクリエイターであり、唯一の甲社の収益部門であるソフト開発部門で重要な存在であること、他のSEは企業への帰属意識が低く、これらの者のみでは収益を維持することは困難であることが記載されている。
 また、この記載からすれば、Bが取締役を辞めれば、Cが他企業に移ることは容易に予測できる。
 そうすると、甲社の他の部門では、従前の収益を維持することは困難であり、通常の企業人であれば、Bらがやめることを予測することができる本件では、甲と経営統合しないとするのが通常の判断である。
 したがって、Yらは、通常の企業人がしないような不合理なことをしたといえ、善管注意義務違反がある。
(2)損害について
 Yらが甲の株式を引受けたことにより、Cが辞め、その結果、甲社のソフト開発部門の収益性が下がり、甲の株価が下がったことは、通常人では予見できたものである。そうすると、甲社1株あたり160円の減損処理額×乙の引受けた株式数の金額は、「損害」(423条)にあたる。
(3)過失について
 前述のように、乙が甲の株を引受ければ、Cが退職し、甲の収益が下がることが予見可能であり、Yはこの事実を資料?をもって予見できたのに、回避しなかった。そうすると、Yらに過失がある。
(4)以上により、Yらは乙に対し、善管注意義務違反に基づく損害賠償債務を負担する。
                            以上