平成18年民事訴訟法 成績A(自己評価B〜C)

第 1 問
 訴状の必要的記載事項の趣旨を明らかにした上で,その不備を理由とする訴状の却下について,その裁判の形式と効果を踏まえて,説明せよ。

(出題趣旨)
 訴状に必要的記載事項の記載が要求される趣旨の基本的な理解とともに,その記載に不備がある場合に裁判長の命令によって訴状が却下されることの趣旨及び訴状却下命令の効力について問う問題である。訴状の必要的記載事項が当事者の確定及び訴訟上の請求の特定のために要求されることに触れ,裁判長の訴状審査権と補正命令の概要を説明した上で,訴状却下命令のための審理において口頭弁論が開かれない理由や命令の既判力の有無等を論ずべきである。

1 必要的記載事項の趣旨について
 訴状の必要的記載事項とは、原告が訴状に必ず記載しなければならないものをいう。
 これは、133条2項に規定されている。以下、その趣旨を検討する。
1) 当事者及び法定代理人について(1号)
ア 当事者とは、訴え、又は訴えられることにより、判決の名宛人となるべき者をいう。また、法定代理人とは、本人に効果帰属させるため、本人の名で自己の意思決定に基づいて訴訟行為をなし、又は相手方の訴訟行為を受ける者をいう。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
イ この点、民事訴訟は、当事者が訴訟追行することにより、行われるものである。
そうすると、訴訟をスタートさせるためには、当事者および法定代理人が明らかでなければ、裁判所は誰に訴訟追行させればよいのか分からない。
そこで、この規定の趣旨は、裁判所に訴訟追行すべき者を知らせ、訴訟をスタートさせることにあると考える。
2) 請求の趣旨及び原因について
ア 請求の趣旨とは、訴えによって求める判決の結論的確定的表示であって、通常請求認容判決の主文に対応するものである。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
  そもそも、民事訴訟においては、訴訟の提起、訴訟物の特定、訴訟の終了について当事者が処分権能を有し、自由に決定できるという処分権主義が採用されている。
  この処分権主義により、原告はいかなる権利の救済を、いかなる種類で、いかなる順序・範囲で求めるかを自由に決することができる。
  しかし、被告、裁判所にとっては、原告がいかなる救済を求めているのかは当然には明らかではない。
  そこで、裁判所に審判対象を明示し、被告に防御の範囲を明示するのがこの規定の趣旨であると考える。
イ 請求の原因とは、請求の趣旨を特定の権利主張として構成するのに必要な事実である。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
  この点、審判の対象である訴訟物は、実体法上の権利関係の存否そのものである(旧訴訟物理論)。なぜなら、基準が明確であるし、実体法との調和をはかることができるからである。
  そして、請求の趣旨の記載のみでは、法律効果のみが明示されるにとどまり、それを基礎付ける法律要件は明らかになっていない。これでは、被告はいかなる法律要件について防御を行えばよいか、明らかでない。また、裁判所はいかなる法律要件について訴訟指揮(148条1項)を行えばよいか明らかでない。
  そして、請求の原因が記載されることにより、被告・裁判所は法律要件が明らかになる。
  そこで、請求の原因は、被告の防御の主張立証の対象となる法律要件を明らかにし、裁判所に訴訟指揮の対象を明らかにするのがその趣旨であると考える。
2 訴状の不備を理由とする却下について
 訴状について、原告が不備を補正しない時は、裁判長は命令で訴状を却下する(137条2項)。
1) 裁判の形式について
  命令とは、裁判長が手続や訴訟指揮に関する事項について終局的に下す判断である。
  まず、命令については、必ず口頭弁論が開かれなければならないという必要的口頭弁論の原則は適用されない(87条1項ただし書参照・任意的口頭弁論)。
  また、裁判長は、相当と認める方法で告知すれば足りる(119条)。
  この趣旨は、手続上の事項であり、わざわざ口頭弁論を開くまでもないからである。
2) 効果について
  まず、命令については、140条の場合と異なり、確定判決の効力である既判力はみとめられない。
  ここに、既判力とは、確定判決に与えられる後訴での拘束力ないし通用力である。
  また、原告は、裁判長の命令に対して、即時抗告をすることができる(137条3項)。
  この趣旨は、訴状の却下に対する原告の不服申し立ての機会を担保することにある。
                                    以上

・第1印象「昔の答練で書いたな」
・反省等 これは結構書けたほうだと思う。昔の公開答練で似たような問題を書き、ひどい評価を食らったことがあった。
 今年は「若手合格者ができることは負けない」がコンセプトであったので、必要的記載事項の定義はすべて書いた。しかし、今読み返してみると、「法定代理人」の定義が「訴訟上の代理人」の定義と間違えている。それに、「請求の特定」のキーワードが出ていない。不十分。

 後段で、命令については既判力があるのかよくわからなかったが、既判力の定義を思い出してみると、「確定判決」に対して与えられるものだと分かったので、不要と考えた。

・今後に向けて 民訴は分けわからん問題が平気で出るので、現場では条文、定義、趣旨くらいしか武器にならない。これから基本書を読むかもしれないが、この3つは常に負けないようにしておかなければならない。
・200問の答案構成はやりすぎだが、こういう問題では強い。100〜150問くらいは流れを押さえておこうと思う。