平成18年刑事訴訟法 成績B(自己評価C〜E)

第 2 問
 甲は,交差点において赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,通行人を死亡させたとして,危険運転致死罪で起訴された。公判において,検察官は,事故を目撃したAを現場に立ち会わせて実施した実況見分の結果を記載した司法警察員作成の実況見分調書の証拠調べを請求したところ,甲の弁護人は,「不同意」との意見を述べた。
 その実況見分調書には,①道路の幅員,信号機の位置等交差点の状況,②Aが指示した自動車と被害者の衝突地点,③甲の自動車が猛スピードで赤色信号を無視して交差点に進入してきた旨のAの供述,が記載されていた。
 裁判所は,この実況見分調書を証拠として取り調べることができるか。

(出題趣旨)
 本問は,交通事故事件において証拠上重要な役割を負う実況見分調書を素材として,実況見分における立会人の指示説明の性質とその証拠能力に関する基本的な理解を問うことによって,伝聞証拠に関する刑事訴訟法の基本的な知識の有無と具体的事案に対する応用力を試すものである。


1 本問の実況見分調書は書面であり、公判廷外の供述証拠で供述内容の真実性立証のために用いられるものである。そうすると伝聞証拠であり、証拠能力が認められないのが原則である(320条1項)。
 そもそも、供述証拠は知覚・記憶・表現叙述の過程を経て公判廷に届くため、その過程に誤りが生ずる恐れがある。そこで、当事者の反対尋問(憲法37条2項)によりチェックすることで誤判を防止するのが伝聞法則の趣旨であると解する。
 しかし、すべての伝聞証拠の証拠能力を否定したのでは、真実発見の要請(1条)に反する。そこで、証拠とする必要性があり、真実性の状況的保障があれば、証拠能力も認められる(321条以下。伝聞例外)。
1)本問では実況見分調書の取調べが請求されている。そこで、実況見分調書は321条3項の検証に関する規定の適用により例外的に証拠能力が認められるか、検討する。
  思うに、同条項が緩やかな要件で証拠能力を認めた趣旨は、①検証調書は専門的知識を有する者により作成されたものであるから、内容が信頼できるものであること、②複雑な内容となるため、書面のほうが当事者にとって分かりやすいことにある。
  そして、検証調書と実況見分調書は強制処分か任意処分かの違いしかないから、実況見分調書でも同条項の趣旨は妥当する。
  そこで、実況見分調書にも321条3項は適用されると解する。
2)また、同条の「真正に作成されたものであることを供述したとき」とは、名義の真正のみならず、作成内容の真実性を供述した場合も含むと解する。
2 ①の部分について
  本問の①の部分は、321条3項の要件を満たすだけで証拠能力は認められるか。
 本問では、道路の幅員、信号機の位置等交差点の状況が書かれているものである。そして、本当にこれらの状況が認められるかは、実況見分調書を作成した警察官に聞けばたりる。 したがって、321条3項の要件を見たすだけで証拠能力は認められる。
  よって、321条3項の要件を満たせば、証拠として取り調べることができる。
3 ②の部分について
  本問では321条3項の要件を満たすだけで証拠能力は認められるのか、検討する。
  本問ではAが衝突地点を指示しているので、Aに本当にその地点で衝突したのかを反対尋問でチェックすべきとも思える。
  しかし、Aの指示は司法警察員実況見分すべき場所を指定しているに過ぎない。そうすると、Aの指示は実況見分のきっかけないし動機である。したがって、本当にAが支持したのか否かは、司法警察員に尋問すれば足りる。
  以上により、321条3項の要件を満たすだけで証拠として取り調べることができる。
4 ③の部分について
  本問では甲が交差点に侵入してきた旨のAの供述が記載されている。そこで、Aに対する反対尋問が必要であり、321条3項の要件のみでは証拠能力が認められないのではないか。伝聞と非伝聞の区別を検討する。
1) 思うに、前述の伝聞証拠排除の趣旨からすれば、伝聞法則が適用されるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられると解する。
   本問では甲が本当に猛スピードで赤信号を無視して交差点に進入したのかを、Aに対する反対尋問でチェックする必要がある。そうすると、伝聞法則の適用があり、321条3項のみならず、321条1項3号の要件を満たす必要がある。
2) 具体的にはAが供述不能であること、Aの供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと、Aの供述が特に信用すべき状況の下になされたことが必要である。
   加えて、Aの署名もしくは押印も必要であると考える(321条1項柱書)。 なぜなら、Aから司法警察員の伝聞過程の真実性を担保する必要があるからである。
3) 以上の要件を満たせば、裁判所は証拠として取り調べることができる。
                                      以上
・第1印象「塾長がヤマを張ったところだ」
・反省等 この答案は12通のなかでは書けた方だと思う。「若手合格者が書ける部分は、分厚く書く」というのが今年のコンセプトであったので、1の部分(伝聞法則の意義&実況見分調書の論証)は気合を入れて書いた。
 反省点があるとすれば、②の部分で、「現場指示」のキーワードを出せなかったこと。冒頭で「厳格な証明が必要なこと」を明示できなかったことである。あと、①②の部分で321条3項のみで足りるのかという部分は、これで説明しきれているのか、不十分な気持ちで書いていた。
 ③の部分「署名押印の要否」については最新判例の知識。やはり直前期に最新判例のチェックは必須。
・今後に向けて 伝聞法則、現場指示、現場供述等、基礎的なチェックは怠らない。最新判例はチェックする。