平成18年商法 成績B(自己評価A〜B)

第 1 問
 Aは,個人で営んできた自動車修理業を会社形態で営むこととし,友人Dにも出資してもらい,甲株式会社を設立した。甲社は,取締役会及び監査役は置くが,会計参与及び会計監査人は置かないものとされ,取締役には,Aのほか,以前からAに雇われていた修理工のB及びCが選任されるとともに,監査役には,Aの妻Eが選任され,また,代表取締役には,Aが選定された(以上の甲社成立までの手続には,何ら瑕疵はなかった。)。
 ところが,甲社では,取締役会が1回も開催されず,その経営は,Aが独断で行っていた。そのため,Aは,知人Fから持ち掛けられた事業拡張のための不動産の購入の話にも安易に乗ってしまい,Fに言われるまま,手付名目で甲社の資金3000万円をFに交付したところ,Fがこれを持ち逃げして行方不明となってしまい,その結果,甲社は,資金繰りに窮することとなった。
 1  甲社の株主であるDは,A,B,C及びEに対し,会社法上,それぞれどのような責任を追及することができるか。
 2  AがFに3000万円を交付する前の時点において,この事実を知った甲社の株主であるD及び監査役であるEは,Aに対し,会社法上,それぞれどのような請求をすることができたか。

(出題趣旨)
 本問は,小規模な取締役会設置会社において,代表取締役が会社の規模に比して高額な契約を独断で締結したところ,相手方の債務不履行により会社に多額の損害が生じた場合について,代表取締役,他の取締役及び監査役の会社に対する任務懈怠責任及び株主を第三者とする損害賠償責任並びに株主及び監査役差止請求権の有無及び要件等を的確に理解し,当該事例へ適切に当てはめることができるかを問うものである。

1 小問1について
1)Aに対する請求について
 本問のAの行為により、株主Dは自己の保有する甲社株式の株価が下がるという損害を受けているものと思われる。
ア そこで、429条1項によりAに対して損害賠償請求をすることはできるか、検討する。
 ア)本件でDは株主であるが、株主も「第三者」にあたるか、同条の法的性質を検討する。
   思うに、同条の趣旨は、株式会社が社会で重要な地位を占めていること、およびその業務執行が取締役に委ねられていることから、取締役の責任を加重することで第三者を保護することにある。そうだとすると、株主であっても取締役の行為から保護する必要性は変わらないから、同条による保護の必要性は存在する。そこで、株主も「第三者」に含まれると解する。
   本問のDも株主であり、「第三者」の要件を満たす。
 イ)では、Aに「悪意または重大な過失」があったといえるか、その対象を検討する。
   私見によれば、悪意重過失の対象を不法行為の事実と考えると第三者の救済される場面が減少する。これでは同条の趣旨に反する。そこで、任務懈怠について悪意重過失であれば足りると解する。
   本問ではAは不動産購入の話に安易に乗ってしまい、慎重に行うべき業務執行をなしていない。そうすると任務懈怠があったといえ、またこれについてすくなくとも重過失がある。よって、要件を満たす。
 ウ)しかし、本問でDが受けた損害は会社が損害を受けたことにより間接的に生じたものであり、間接損害である。そこで、「損害」に間接損害も含まれるか検討する。
   思うに、前述の趣旨から、第三者保護のため、広く間接損害も「損害」に含まれると解する。
   本問でもDの損害は「損害」に含まれる。
 エ)よって、DはAに対して損害賠償責任を追及できる。
イ また、Dは甲社がAに対して有する損害賠償請求権を代位して責任追及できる(423条1項・847条1項3項)。この趣旨は、会社が取締役に責任追及しない場合に、株主が直接責任追及することで、会社の損害を直接的に回復する点にある。
ウ さらに、Dは株主総会で、Aの損害を填補することなく、Aを解任することができる(339条1項2項)。この趣旨は、取締役を業務執行から排除することで、会社の健全性を実現することにある。
2)BCに対する請求について
 AはBCに対して損害賠償責任を追及することが考えらえる(429条1項)。
 ここで、BCに任務懈怠が観念できるか、検討する。
 確かに、代表取締役でない以上、任務懈怠は観念できないとも思える(349条1項ただし書き)。しかし、取締役は、他の取締役の業務執行を監視監督する責任を負う。これは取締役会の構成員という地位に基づくものである(362条2項2号)。
 また、非上程事項でも、監視義務を負う。なぜなら、取締役は各々取締役会を招集し、その適法性をチェックできるからである。
 本問では「取締役会が1回も開催されなかった」ものである。そして、CDは
これを取締役会に報告すべきであったのだから、任務懈怠があり、少なくとも重過失がある。
 よって、AはCDに対して損害賠償責任を追及することができる。
3)Eに対する請求について
 DはEに対して損害賠償責任を追及できるか、検討する(429条1項)。
 まず、不動産の購入という妥当性についての監査は監査権限(381条1項)に含まれるか。
ア 思うに、経営に関与しない監査役には経営の妥当性監査は権限外であると解する。もっとも、善管注意義務違反(330条・民法644条)に該当する行為であれば、結局適法性監査となり、監査対象になると解する。
イ 本問では、明らかに不当な不動産購入行為をAが行っている。これはAの甲社に対する善管注意義務違反があったといえ、適法性監査の対象になる。したがって、これを見   
逃したEには任務懈怠があるし、これについて重過失がある。よって、DはEに損害賠償責任を追及できる。
2 小問2について
1)Dについて
 DはAに対して、不動産を購入しないように請求することができる(360条)。
 なぜなら、Aの行為は「法令・・・に違反する行為」であるし、これにより甲社に「回復することのできない損害」(3項)が生ずるおそれがあるからである。
2)Eについて
EはAに対して、不動産を購入しないように請求することができる(385条)。
 なぜなら、法令違反の行為であるし、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるからである。
 これらの規定の趣旨は、取締役の不法な行為を事前に防止して、会社の経営の健全性を事前に確保することにある。
                                     以上

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