平成18年商法 成績B(自己評価A〜B)

第 2 問
 大阪市内で電化製品販売業を営むY株式会社の代表取締役Aは,デジタルカメラの某人気機種を安値で大量に調達しようと考え,何度か取引をしたことのある「東京都内に本店のあるZ株式会社の大阪支店営業部長甲山一郎」と自称する人物(以下「B」という。)に対し,売主を探してきてほしい旨の依頼をしたところ,Bから,「Y社振出しの約束手形を所持していると仲介者として行動しやすい。売主との話がついたら返すから,取りあえず貸してほしい。」と言われたため,取引銀行から交付されていた統一手形用紙を用いて,その振出人欄に「Y社代表取締役A」と記名して銀行届出印ではない代表者印を押捺し,手形金額欄に「3,000,000円」と記入したものを,受取人欄,満期欄及び振出日欄を空白にしたまま,Bに交付した。
 ところが,Bは,その受取人欄に「Z社大阪支店」と記入して満期欄と振出日欄も補充し,裏書人欄に「Z社大阪支店長甲山一郎」と記名捺印した上,これを割引のため金融業者Xに裏書譲渡し,その割引代金を持ったまま姿をくらました。その後の調査により,東京都内にZ社は実在するものの,同社には,大阪支店はなく,甲山一郎という氏名の取締役や従業員もいないことが判明した。
 XがY社に対して手形金の支払を請求した場合,この請求は認められるか。

(出題趣旨)
 本問は,受取人欄,満期欄及び振出日欄を空白にしたいわゆる見せ手形を交付した場合について,振出しの名義人が手形上の責任を負うかどうかを問うものである。具体的には,受取人欄,満期欄及び振出日欄の記載を欠くこと,振出しの名義人が手形債務を負担する意思を有していたとはみられないこと等の事実が手形上の責任の発生ないし手形所持人による権利の取得にどのような影響を与えるかについて整合的な論述をすることが求められる。

1 XがY社に対して手形金の支払を請求するためには有効に手形上の債務が発生している必要がある。
2 しかし、Aは受取人欄、満期欄、振出日を空白にしてBに交付されている。この手形は手形要件を欠いたまま振り出されており、無効手形として(76条1項本文)債務は発生していないのではないか。商慣習上認められている白地手形との区別を検討する。
 思うに、白地手形と無効手形は、外見上は同じものである。そうだとすると両者の区別は外観ではなく、手形を交付した者の意思によらざるを得ない。
 そこで、振出人が受取人に対して、後日白地を補充する権利を付与して手形を交付した場合には白地手形になるものと解する。
 本問ではAB間では「売主との話がついたら返す」という合意の下、手形が交付されている。そうだとすると、AはBに手形を返還してもらうつもりであったのだから、後日白地を補充する権利を付与して手形を交付した場合ではない。そうすると無効手形になる。
 よって、本件で手形債務は有効に発生していない。したがって、Xは手形上の権利を有効に承継取得せず、請求は認められないのが原則である。
3 しかし、Bは受取人欄を記入して、満期欄と振出日欄も記入したうえで本件手形をXに裏書譲渡している。そうすると、Xは本件手形が有効なものと信頼して手形を取得したともいえるため、手形金請求を認めてXの保護を図る必要がある。そこで、Xを保護するための法律構成を検討する。
 思うに、有効に権利があるとの外観が存在した場合、外観作出者の帰責の下、この外観を信頼した者を保護すべきである(権利外観法理)。
 そこで、①有効に手形上の権利が取得できるとの外観が存在し、②外観作出者に帰責性が認められる場合には、③この外観を善意無重過失で信じて取引関係の入った物は、手形上の権利を取得するものと解する。
 本件では、この要件をみたすか、検討する。
1)①について
 この点、本件手形は受取人欄に「Z社大阪支店」、裏書人は「Z社大阪支店長甲山一郎」となっている。しかし、実際にはZ社には大阪支店はなく、甲山一郎も存在しなかったのであり、この記載はBによる無権代理である。そして無権代理ゆえに裏書の連続が認められないとなれば、Xが①有効に手形上の権利が取得できる外観がなかったといえ、Xが手形上の権利を取得しないということもできる。
 そこで、裏書の連続の判断方法を検討する。
 この点、裏書の連続とは、手形の記載上、裏書人から最後の被裏書人に至るまで、各裏書の記載が間断なく続いていることをいう。
 そして、裏書の連続を判断するに際して、実質的な権利関係の調査まで要求されるとすれば、手形を取得しようとする者は安心して手形を取得することができず、手形の流通性を害する。そこで、裏書の連続の判断方法は、外形的、客観的に見て判断すべきである。
 本件で外形的・客観的に見ると、受取人は法人としてのZ社、裏書人も法人としてのZ社であるとみることができる。そうだとすると、本件手形に裏書の連続はあったものということができる。したがって、Xが①有効に手形上の権利を取得できる外観があったといえる。よって、①の要件を満たす。
2)②について
 では、Yに帰責性はあるのか、検討する。
 たしかに、AはBによる無断の手形要件の補充を防止するために、「銀行届出印ではない代表者印を捺印しているものとみられる。そうだとすると、Yは外観作出防止のために一定の配慮をしていたのであり、Yに帰責性は無いということもできる。
 しかし、手形取得者からすれば、銀行届出印をいちいち確認することはないから、上記の事情をもってYに帰責性がないということはできない。
 また、Yとしては、Bの実体をきちんと調査すべきだったのであり、このような正体不明の者に手形を渡したことについて②帰責性がみとめられる。
3)③について
 では、Xは虚偽の外観について善意無重過失で取引関係に入った者といえるか。
 本件では300万円という大金の手形が発行されている。そうだとすれば、手形を取得しようとする者としては、手形の真偽について、手形債務者に問い合わせるのが通常である。したがって、金融業者という専門家であるにもかかわらず、なんら調査をすることなく手形を取得したYには、少なくとも虚偽の外観について重過失がある。
 よって、③の要件を満たさない。
4 よって、XはY社に手形金を請求できない。
                                      以上

自己評価は、追ってコメント予定。

 平成18年民法 成績E(自己評価F〜G)

第 2 問
 Aは,B所有名義で登記されている建物(以下「本件建物」という。)をBから賃借して引渡しを受け,本件建物で店舗を営んでいる。Aは,賃借に当たってBに敷金を支払い,賃料もBに遅滞なく支払ってきた。ところが,本件建物は,真実はBの配偶者であるCの所有であり,CがBに対し,Bの物上保証人として本件建物に抵当権を設定する代理権を付与し登記に必要な書類を交付したところ,Bが,Cに無断でB名義に所有権移転登記を経由した上,Aに賃貸したものであった。
 以上の事案について,次の問いに答えよ(なお,各問いは,独立した問いである。)。
 1  Aが本件建物を賃借してから1年後に,Aは,その事実を知ったCから本件建物の明渡しを請求された。Aは,Cに対し,どのような主張をすることが考えられるか。
 2  Aは,本件建物がBの所有でないことを知った後,Cに対してBとの賃貸借契約が当初から有効であることを認めてほしいと申し入れたものの,Cは,これを拒絶した。その後,Cが死亡し,BがCを単独相続したところ,Bは,Aが本件建物を賃借してから1年後に,Aに対し本件建物の明渡しを請求した。
  (1 ) Aは,Bに対し,BがCを単独相続したことを理由に本件建物の明渡しを拒絶することができるか。
  (2 ) 仮に(1)の理由で明渡しを拒絶することができないとすれば,Aは,Bに対し,どのような主張をすることができるか。特に敷金の返還を受けるまで本件建物の明渡しを拒絶すると主張することができるか。

(出題趣旨)
 小問1は,代理人が基本代理権を逸脱してなした行為が代理形式ではなく自己名義でなされた場合に,民法94条2項の類推適用など善意の相手方を保護するための法理を問うものである。小問2は,他人物賃貸借において権利者の拒絶の意思が示された後にその地位を他人物賃貸人が相続した場合の法律関係を考察し,さらに他人物賃貸借が履行不能により終了した場合における賃借人の法的主張について敷金返還請求を中心に検討することを求めるものであり,典型的でない事例への応用能力を試すものである。


1 小問1
 AはCに対して、賃借権(601条)の占有権原を主張することが考えられる。この主張は認められるか検討する。
 本問ではBは本件建物を所有するものではなく、賃借権を設定する権限がない。そうすると、BA間の契約は他人物賃貸借(559条560条601条)となり、真の所有者であるCに占有権原を対抗できないのが原則である。
 しかし、AはBの登記を信頼して契約を締結しているため、Aの信頼を保護する必要がある。そこで、94条2項により、Aが例外的に賃借権を取得しないか、検討する。
 この点、BC間に通謀虚偽表示はないため、94条2項は直接適用されないのが原則である。
 しかし、同条の趣旨は、公示方法が真の権利関係と異なる場合に、真の権利者の犠牲の下、公示を信頼した第三者を保護することにある(権利外観法理)。かかる趣旨からすれば、たとえ通謀虚偽表示が無くても、①虚偽の外観があり、②第三者が外観を信頼し、③真の権利者に帰責性があれば、第三者は権利を取得すると解する。
 本問では、本件建物はCの所有であるにもかかわらず、Bのものであるとの登記がなされているので、①虚偽の外観がある。この点、②については、第三者に善意無過失を要求すべきである(110条参照)。なぜなら、真の権利者のCは虚偽の外観作出になんら関与していないのであり、第三者保護の要件を加重して、真の権利者を保護すべきだからである。本問では、Aが登記を信じたうえで契約を結んだのであれば、②の要件も満たす。
 そして、Cが登記の変更されたことを知りながら放置していたのであれば、③帰責性もあるといえる。
 以上の要件をみたすのであれば、Aは94条2項類推適用により、賃借権を取得する。この場合には占有権原の抗弁が認められ、Cの明渡し請求を拒むことができる。
なお、761条の適用により、Bの効果がCに帰属するという抗弁を主張することは出来ない。なぜなら、建物の賃貸借は客観的に見て夫婦の共同生活に通常必要な行為とはいえず、「日常の家事」とはいえないからである。
2 小問2(1)
 Aが明け渡しを拒絶するためには、Bの追認権行使が信義則違反(1条2項)として認められないことが必要である。以下、検討する。
 この点、BはCを単独相続している。そして、相続は被相続人の下での法律関係を相続人の下で維持するものであるから、相続人と被相続人の地位は併存する。
 しかし、本問ではCは追認拒絶権を行使しており、CにBA間の契約の効果が帰属しないことが確定している(113条準用)。そうすると、Bは追認拒絶権を行使したCの地位を相続するにすぎない。したがって、Bが追認権拒絶権を行使したことを主張しても、なんら前後矛盾した行為をしたことにはならない。
 したがって、Bの追認拒絶権行使は信義則違反にはならない。
 よって、Aは明渡しを拒絶できない。
3 小問2(2)
1)まず、AはBに対して敷金返還請求権を被担保債権として、留置権(295条1項本     文)本件建物の引渡しを拒むことが考えられる。かかる主張が認められるには、被担保債権である敷金返還請求権がすでに発生していることが必要である。
そこで、敷金返還請求権は明渡し前でも発生しているのか、検討する。
思うに、敷金は、賃貸借契約における賃借人の一切の債務の履行を担保するものである。
そうだとすれば、賃貸借契約終了後・明渡前に発生する賃借人の債務も担保する必要がある。また、敷金返還請求権と建物は価値的に差が大きく、留置権を認めるのは不均衡である。そこで、被担保債権である敷金返還請求権は明け渡し時に発生するものと解する。
そうすると、本件でも被担保債権の敷金返還請求権は発生していない。
よって、AはBに対して留置権を行使して本件建物の引渡しを拒絶することはできない。
2)しかし、Bは依然として他人物賃貸人の地位を有しており、本件契約の終了により、「権利を取得して」賃貸人に「移転することができなかった」といえる。そうすると、他人物であることにつき善意であったAは、Bに信頼利益の損害賠償請求をすることができる(561条後段)。
 また、本件契約の終了により、Aは店舗の経営をすることができなくなったのだから、損害が生じているといえる。したがって、履行利益について、AはBに損害賠償請求をすることができる(415条)。
                                     以上

自己評価は追ってコメントします。
▼合格者コメント「全体の印象として、論述が弱いです。
特に761→761を基本代理権とした110の話が落ちているのは痛い。
また、2(1)も、ド典型で誰もが詳しく書いてくるにも関わらず、この分量では相対的に点が伸びない。
全体として、第1問のミスをカバーできるほどの答案ではなかったというのが、E評価の原因ではないか。→第2問を積極的にかけていれば、C位にはなったのでは。」

 平成18年憲法 成績C(自己評価A) 第2問

第 2 問
 A市において,「市長は,住民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,住民投票を実施することができる。この場合,市長及び議会は,住民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の条例が制定されたと仮定する。
 この条例に含まれる憲法上の問題点について,「内閣総理大臣は,国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,国民投票を実施することができる。この場合,内閣及び国会は,国民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の法律が制定された場合と比較しつつ,論ぜよ。

(出題趣旨)
 本問は,条例により投票結果に法的拘束力を与える住民投票制度を導入することが憲法上許されるかという点について,日本国憲法における代表民主制と直接民主制の位置づけや関連規定の趣旨,地方自治の本旨等に関する基本的理解を踏まえながら,国民投票の場合と対比しつつ,論理的記述ができるかどうかを問うものである。

1 本問条例は住民投票を認める規定であり、これにより住民は自ら政治的権力を行使することができる。そうすると、本問条例は、直接民主制的制度を採用するものである。
  しかし、憲法は、地方自治について、間接民主制を原則としている(93条1項)。 
  そこで、本問条例は間接民主制の原則に反しないか、検討する。
2 内閣総理大臣の場合
  憲法は、国政について、間接民主制を採用している(43条1項・前文1項)。
  そこで、本問法律は間接民主制の原則に反しないか、検討する。
1)たしかに、本問法律は、国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について国民の意見を問うものである。そうすると、本問法律は国民主権(1条)の趣旨に合致し、望ましいものとも思える。
2)しかし、間接民主制の原則(43条1項、前文1項)の趣旨は、①国民の代表者である国会議員の審議・討論を通じ、民意の統合を図ること、②多数決的民主主義では、少数者への人権侵害の恐れが強いことにある。
  そうだとすれば、国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項については、国民の代表者による慎重な審議・討論をさせることが、長期的にみて国民の利益になる。
  また、本問法律では、強大な権限を有する内閣総理大臣(72条参照)がその独自の判断で国民審査に付するか否かを決定できる。そうすると、本問法律は、内閣総理大臣プレビシットを正当化する役割を果たすことになってしまう。
また、本問法律により国民投票がなされれば、国会が審議することなくその結果に拘束されるのである。
  以上のことからすると、本問法律は、①国会議員の審議・討論を通じ、民意の統合を図ることをできなくするものである。
  また、国政の場合、国民同士が議論することは難しい。そうすると、本問法律により国民投票をみとめると少数者はその意見が検討されることなく、結果に拘束されることになる。これでは少数者の人権侵害の危険性は消えない(②)。
  以上のことからすると、本問法律は間接民主制の原則に反する。
3) よって、本問法律は違憲である。
3 市長の場合
1) 地方自治においても、間接民主制が原則とされている(93条1項)。そうだとすると、本問条例も、法律の場合と同様に違憲になるとも思える。
2) しかし、地方自治の場合、憲法は国政の場合と異なり直接民主制的制度も採用している(93条2項)。
   そこで、本問条例は、間接民主制の原則の例外として、許容されないか、検討する。
   思うに、地方で直接民主主義的制度が採用された趣旨は、国政で採用されない民意を取り入れ、民意の反映を実現することにある。
   かかる趣旨からすれば、①民意の反映に資するもので、②前述の間接民主制の原則の趣旨に反しないのであれば、本問条例も合憲になるものと考える。
3) これを本問について検討する。
   確かに、住民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項については、住民自身が決するのが望ましい。したがって、本問条例は民意の反映に資する(①)。
   また、国政の場合と異なり、本問条例で問われる事項はその地域内の事項に限られる。そうだとすれば、国政の場合と異なり、住民内での議論が可能である。したがって、民意の統合も可能であるともいえる。
   さらに、地域内の事項であれば、プレビシットによる弊害も国政の場合と比べて少ない。
   しかし、本問条例は、法律の場合と同様に、市長が独断で住民投票に付するかを決定できるものである。また、審議に参加することなく、議会は住民投票の結果に拘束される。そうだとすれば、地域の少数派は、議会で自己の意見を主張することなく、住民投票の結果に拘束されるものといえる。そうだとすると、少数派の人権侵害の危険は存在する。
   そうすると、本問条例は間接民主制の原則に反する(②)。
4) よって、本問条例は違憲である。
                                    以上

・第1印象「今年の公開答練の問題に似ている」
・失敗→答案2(2)の間接民主制の趣旨は①民意の統合と②少数者の人権保護、という記述は、昭和63年2問を検討したときに覚えたこと。しかし、ここに「民意の反映」も含ませるべきかは、いまだ不明。民意の反映を書くと直接民主主義のニュアンスが強いので、僕は書かないと決めていた。
 後の3(2)の「地方で直接民主主義的制度が採用された趣旨」の部分で、突如「民意の反映」が出てくるが、このような説明で国政と地方自治の違いを説明できたといえるのであろうか。今読めば、かなり舌足らずな感じがする。

 「日本国憲法における代表民主制と直接民主制の位置づけや関連規定の趣旨,地方自治の本旨等に関する基本的理解を踏まえながら」(出題趣旨)という問いに十分に答えられたのだろうか。疑問な答案。
 
 3(2)の部分で、「地方自治の場合、憲法は国政の場合と異なり直接民主制的制度も採用している(93条2項)」としている。しかし、国政であっても直接民主制的制度があるのは明白なので(96Ⅰ・95・79Ⅱ)、この記述は基本的理解を疑われかねない。「憲法は、地方自治においては、直接民主制的制度を容認していると推認できる」と柔らかく書くべきであった。
 
 ・反省点→「基本概念の趣旨は、(書こうと思えば)どれだけでも書けるようにする」ということか。

▼追記 試験委員のコメント「21点〜23点の印象 地方自治の本旨に配慮できれば24点]
「92条の住民自治にも配慮した記載をすべきであった。」

▼ 合格者コメント「比較に対する意識が弱い。」
「良く言えば無難、悪く言えば平凡な答案で。平均的受験生が買うであろうことは押さえており、守りの答案としては十分なのですが、本問がド典型であり、大部分がそれなりに書いてくる以上、この答案では有利にはならない。第1問のロスを埋めも広げもしないというのは率直な感想。」

 平成18年憲法 成績C(自己評価A) 第1問 

第 1 問
 国会は,主に午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が,多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由から,この時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限するとともに,この制限に違反して広告放送を行った場合には当該放送事業者の放送免許を取り消す旨の法律を制定した。この結果,放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円の減収が見込まれている。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(出題趣旨)
 本問は,放送事業者の広告放送の自由を制約する法律が制定されたという仮定の事案について,営利的表現の自由の保障根拠や放送という媒体の特性を踏まえて,その合憲性審査基準を検討し,当該事案に適用するとともに,放送事業者に生じうる損害に対する賠償ないし補償の可能性をも検討し,これらを論理的に記述できるかどうかを問うものである。


1 本問法律により、放送事業者は減収の危険、免許取消の危険にさらされる。
 そこで、本問法律は放送事業者の放送の自由を侵害し、違憲ではないか検討する。
1)まず、放送の自由は何条により保障されるか。
たしかに、放送により収入を得るという側面があるため、営業の自由を保障した22条1項により保障されるともいいうる。
しかし、放送の自由は、放送事業者の意見を公に明らかにして立憲民主主義を発展させる側面や、意見を明らかにすることで放送事業者の精神活動を向上させる側面を持つ。
そうすると、自己実現、自己統治の価値を有するので、表現の自由を保障した21条1項により保障されると解する。
2)しかし、放送の自由も無制限ではなく、人権相互の矛盾抵触を調整する「公共の福祉」(12条後段・13条後段)による制約に服する。
  本問では、視聴者の多様で質の高い放送番組へのアクセスという知る権利(21条1項参照)の実現のために制約に服する。
  では、本問法律は必要最小限の制約といえるか、違憲審査基準を検討する。
  たしかに、知る権利の重要性にかんがみれば、緩やかな制約によるべきとも思える。
  しかし、放送の自由は、表現の自由の一つであり、表現の自由は精神的自由である。
  そして、精神的自由は、経済的自由と異なり、民主政での自己回復が困難な自由である。そうだとすると、精神的自由への規制立法について裁判所は経済的自由の場合と比べて、厳格な基準で審査すべきである。そこで、厳格な基準によるべきとかんがえる。
  具体的には、①目的が重要で、②手段が必要最小限のものでなければならないと考える。
2 これを本問法律について検討する。
1) まず、本問法律の目的は視聴者の多様で質の高い放送番組へのアクセスという知る権利の実現にある。
   そうすると、本問法律により視聴者は自己の意見を形成できるようになるのだから①目的は重要といえる。
2) では、②手段は必要最小限といえるか。
 ア  たしかに、本問法律により午後6時から11時という最もテレビが見られる時間帯に広告放送が5分に制限され、放送時間が拡大することになる。そうすると目的実現のために効果的とも思える。
 イ  しかし、本問法律により、放送事業者は数十億円の減収を受けるのである。 
    そうすると、本問法律により、放送事業者の番組制作費が大幅に減少することが予測される。これにより、番組の質が低下し、かえって視聴者の質の高い番組へのアクセスが困難になる。
    また、本問法律に違反すれば、放送事業者は放送免許の取消しという大きな不利益を受ける危険が高まる。そうすると、前述の番組制作費の減少とあいまって、本問法律の適用をうけないように、質の低い番組を繰り返し放送するという事態も起こりうる。これでは、視聴者の質の高い番組へのアクセスを実現することは困難である。
    さらに、本問のような目的を実現するには、放送事業者同士による取り決め、法的効果を伴わない行政指導によることも可能である。
    それにもかかわらず、放送免許の取消しという強大な効果を伴う本問法律は、目的実現の手段としては行き過ぎであり、②必要最小限とはいえない。
3) したがって、本問法律は必要最小限の制約とはいえない。
3 よって、本問法律は放送事業者の放送の自由を侵害し、違憲である。
                                     以上
・第1印象「おお、面白そう。ん?「数十億」?財産権?」
・失敗→勝負すべき人権について、22条か21条か散々迷ったが、皆が21条で書きそうと思ったので、22条説に配慮しながら21条にした(平成12年1問参照)。
 しかし、これだけで力尽きてしまい(時間ぎりぎり)、営利的表現の自由であることを完全に忘却していた。違憲審査基準定立の部分に至るまで、「営利的」のキーワードが出ていない。「一見極めて明白に」真ん中の答案に自分から成り下がってしまった。(この時点でAは無理だろう)。
 また、数十億の部分については、国賠を書くべきだった模様(出題趣旨)。しかし、「減収が見込まれている」の記述→まだ損害は生じていない→書くことは不要と安易に判断してしまった。
・反省点→「問題文にとらわれすぎない」。すなわち、「数十億の減収」という記述を見れば、周りの受験生は国賠or損失補償を書いてくる。問題文にこだわって書かない選択を取るよりも、みんなが書きそうなことを書く、という選択をとるべき。
「人権はレベルが高い」。営利的表現の自由なんて、誰でも知っている。こういう大学生でも知っていることを確実に本試験の現場で出てくるようにする。
「守りの答案とは、書かないことではない」。

▼追記 試験委員のコメント 「20〜22点という印象、営利的表現、内容規制、放送の自由(公共性)に配慮して違憲審査基準を定立すれば、24点」「法人の人権享有主体性に配点は無いであろう。→保障されるか微妙なものであれば、書くべき」
「当てはめは考えられており、OK」
「国賠損失補償は、この問題では加点。しかし、新試験では配点があるはず。→積極的に書くべきであろう。」

▼合格者コメント 「規範定立までが抽象的すぎる 内容規制であること、放送という形態であること、営利的言論であることに配慮しつつ書くべき。自己統治、自己実現も書く→基準定率までは具体的に書く!」
「本問で検討すべきは広告=営利的表現であり、放送一般ではないので、この点で若干ピントがずれている。
また、違憲審査基準定立までの論述が薄く、書き負けている印象がある。当てはめが考えられている点、および、大きなミスが無い点で、失点が少なく、他の受験生のミスもあってのCであろう。」

論文結果発表

お久しぶりです。論文試験、結果は不合格でした。
成績は、憲民商刑民訴刑訴→CEBAABで、総合B。127・24点 1328位です。

出題趣旨も発表されましたし、憲法から再現答案をアップしていきます。
コメント欄もありますので、遠慮なく書き込んで、叩いてください(2ちゃんねるでは叩かないでください)。

<大停電>クレーン船作業員供述 「送電線知らなかった」

作業員が「今回の現場に行ったのは初めてで、送電線があるのは知らなかった」と供述していることが分かった。同署は器物損壊や業務妨害容疑も視野に事情を聴いている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060814-00000106-mai-soci

器物損壊にも業務妨害にも過失犯処罰規定は無いですよね。どういう意味があるんでしょうかね。

杉村太蔵ブログ

http://sugimurataizo.net/2006/02/post_131.html

杉村さんって、昔は司法試験受験生だったんですね。知りませんでした。


でもね、杉村太蔵は、
「為せば成る。しかし、為しても成さぬときがある。そのときこそ、俺たちの本当の勝負だ」
と思うわけですよ。
そこで腐るのも人生。
気持ちを切り替えて新しい夢と目標に向かって、力強く歩きだすのも人生ではないでしょうか。


いいこといいますね。合格するためにベストを尽くすのは当たり前で、それでも結果を出せなかったときに、どうするのか。そこでその人の力がわかるような気がしますね。