平成18年民法 成績E(自己評価F〜G)

第 2 問
 Aは,B所有名義で登記されている建物(以下「本件建物」という。)をBから賃借して引渡しを受け,本件建物で店舗を営んでいる。Aは,賃借に当たってBに敷金を支払い,賃料もBに遅滞なく支払ってきた。ところが,本件建物は,真実はBの配偶者であるCの所有であり,CがBに対し,Bの物上保証人として本件建物に抵当権を設定する代理権を付与し登記に必要な書類を交付したところ,Bが,Cに無断でB名義に所有権移転登記を経由した上,Aに賃貸したものであった。
 以上の事案について,次の問いに答えよ(なお,各問いは,独立した問いである。)。
 1  Aが本件建物を賃借してから1年後に,Aは,その事実を知ったCから本件建物の明渡しを請求された。Aは,Cに対し,どのような主張をすることが考えられるか。
 2  Aは,本件建物がBの所有でないことを知った後,Cに対してBとの賃貸借契約が当初から有効であることを認めてほしいと申し入れたものの,Cは,これを拒絶した。その後,Cが死亡し,BがCを単独相続したところ,Bは,Aが本件建物を賃借してから1年後に,Aに対し本件建物の明渡しを請求した。
  (1 ) Aは,Bに対し,BがCを単独相続したことを理由に本件建物の明渡しを拒絶することができるか。
  (2 ) 仮に(1)の理由で明渡しを拒絶することができないとすれば,Aは,Bに対し,どのような主張をすることができるか。特に敷金の返還を受けるまで本件建物の明渡しを拒絶すると主張することができるか。

(出題趣旨)
 小問1は,代理人が基本代理権を逸脱してなした行為が代理形式ではなく自己名義でなされた場合に,民法94条2項の類推適用など善意の相手方を保護するための法理を問うものである。小問2は,他人物賃貸借において権利者の拒絶の意思が示された後にその地位を他人物賃貸人が相続した場合の法律関係を考察し,さらに他人物賃貸借が履行不能により終了した場合における賃借人の法的主張について敷金返還請求を中心に検討することを求めるものであり,典型的でない事例への応用能力を試すものである。


1 小問1
 AはCに対して、賃借権(601条)の占有権原を主張することが考えられる。この主張は認められるか検討する。
 本問ではBは本件建物を所有するものではなく、賃借権を設定する権限がない。そうすると、BA間の契約は他人物賃貸借(559条560条601条)となり、真の所有者であるCに占有権原を対抗できないのが原則である。
 しかし、AはBの登記を信頼して契約を締結しているため、Aの信頼を保護する必要がある。そこで、94条2項により、Aが例外的に賃借権を取得しないか、検討する。
 この点、BC間に通謀虚偽表示はないため、94条2項は直接適用されないのが原則である。
 しかし、同条の趣旨は、公示方法が真の権利関係と異なる場合に、真の権利者の犠牲の下、公示を信頼した第三者を保護することにある(権利外観法理)。かかる趣旨からすれば、たとえ通謀虚偽表示が無くても、①虚偽の外観があり、②第三者が外観を信頼し、③真の権利者に帰責性があれば、第三者は権利を取得すると解する。
 本問では、本件建物はCの所有であるにもかかわらず、Bのものであるとの登記がなされているので、①虚偽の外観がある。この点、②については、第三者に善意無過失を要求すべきである(110条参照)。なぜなら、真の権利者のCは虚偽の外観作出になんら関与していないのであり、第三者保護の要件を加重して、真の権利者を保護すべきだからである。本問では、Aが登記を信じたうえで契約を結んだのであれば、②の要件も満たす。
 そして、Cが登記の変更されたことを知りながら放置していたのであれば、③帰責性もあるといえる。
 以上の要件をみたすのであれば、Aは94条2項類推適用により、賃借権を取得する。この場合には占有権原の抗弁が認められ、Cの明渡し請求を拒むことができる。
なお、761条の適用により、Bの効果がCに帰属するという抗弁を主張することは出来ない。なぜなら、建物の賃貸借は客観的に見て夫婦の共同生活に通常必要な行為とはいえず、「日常の家事」とはいえないからである。
2 小問2(1)
 Aが明け渡しを拒絶するためには、Bの追認権行使が信義則違反(1条2項)として認められないことが必要である。以下、検討する。
 この点、BはCを単独相続している。そして、相続は被相続人の下での法律関係を相続人の下で維持するものであるから、相続人と被相続人の地位は併存する。
 しかし、本問ではCは追認拒絶権を行使しており、CにBA間の契約の効果が帰属しないことが確定している(113条準用)。そうすると、Bは追認拒絶権を行使したCの地位を相続するにすぎない。したがって、Bが追認権拒絶権を行使したことを主張しても、なんら前後矛盾した行為をしたことにはならない。
 したがって、Bの追認拒絶権行使は信義則違反にはならない。
 よって、Aは明渡しを拒絶できない。
3 小問2(2)
1)まず、AはBに対して敷金返還請求権を被担保債権として、留置権(295条1項本     文)本件建物の引渡しを拒むことが考えられる。かかる主張が認められるには、被担保債権である敷金返還請求権がすでに発生していることが必要である。
そこで、敷金返還請求権は明渡し前でも発生しているのか、検討する。
思うに、敷金は、賃貸借契約における賃借人の一切の債務の履行を担保するものである。
そうだとすれば、賃貸借契約終了後・明渡前に発生する賃借人の債務も担保する必要がある。また、敷金返還請求権と建物は価値的に差が大きく、留置権を認めるのは不均衡である。そこで、被担保債権である敷金返還請求権は明け渡し時に発生するものと解する。
そうすると、本件でも被担保債権の敷金返還請求権は発生していない。
よって、AはBに対して留置権を行使して本件建物の引渡しを拒絶することはできない。
2)しかし、Bは依然として他人物賃貸人の地位を有しており、本件契約の終了により、「権利を取得して」賃貸人に「移転することができなかった」といえる。そうすると、他人物であることにつき善意であったAは、Bに信頼利益の損害賠償請求をすることができる(561条後段)。
 また、本件契約の終了により、Aは店舗の経営をすることができなくなったのだから、損害が生じているといえる。したがって、履行利益について、AはBに損害賠償請求をすることができる(415条)。
                                     以上

自己評価は追ってコメントします。
▼合格者コメント「全体の印象として、論述が弱いです。
特に761→761を基本代理権とした110の話が落ちているのは痛い。
また、2(1)も、ド典型で誰もが詳しく書いてくるにも関わらず、この分量では相対的に点が伸びない。
全体として、第1問のミスをカバーできるほどの答案ではなかったというのが、E評価の原因ではないか。→第2問を積極的にかけていれば、C位にはなったのでは。」