平成18年民事訴訟法 成績A(自己評価B〜C)

第 1 問
 訴状の必要的記載事項の趣旨を明らかにした上で,その不備を理由とする訴状の却下について,その裁判の形式と効果を踏まえて,説明せよ。

(出題趣旨)
 訴状に必要的記載事項の記載が要求される趣旨の基本的な理解とともに,その記載に不備がある場合に裁判長の命令によって訴状が却下されることの趣旨及び訴状却下命令の効力について問う問題である。訴状の必要的記載事項が当事者の確定及び訴訟上の請求の特定のために要求されることに触れ,裁判長の訴状審査権と補正命令の概要を説明した上で,訴状却下命令のための審理において口頭弁論が開かれない理由や命令の既判力の有無等を論ずべきである。

1 必要的記載事項の趣旨について
 訴状の必要的記載事項とは、原告が訴状に必ず記載しなければならないものをいう。
 これは、133条2項に規定されている。以下、その趣旨を検討する。
1) 当事者及び法定代理人について(1号)
ア 当事者とは、訴え、又は訴えられることにより、判決の名宛人となるべき者をいう。また、法定代理人とは、本人に効果帰属させるため、本人の名で自己の意思決定に基づいて訴訟行為をなし、又は相手方の訴訟行為を受ける者をいう。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
イ この点、民事訴訟は、当事者が訴訟追行することにより、行われるものである。
そうすると、訴訟をスタートさせるためには、当事者および法定代理人が明らかでなければ、裁判所は誰に訴訟追行させればよいのか分からない。
そこで、この規定の趣旨は、裁判所に訴訟追行すべき者を知らせ、訴訟をスタートさせることにあると考える。
2) 請求の趣旨及び原因について
ア 請求の趣旨とは、訴えによって求める判決の結論的確定的表示であって、通常請求認容判決の主文に対応するものである。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
  そもそも、民事訴訟においては、訴訟の提起、訴訟物の特定、訴訟の終了について当事者が処分権能を有し、自由に決定できるという処分権主義が採用されている。
  この処分権主義により、原告はいかなる権利の救済を、いかなる種類で、いかなる順序・範囲で求めるかを自由に決することができる。
  しかし、被告、裁判所にとっては、原告がいかなる救済を求めているのかは当然には明らかではない。
  そこで、裁判所に審判対象を明示し、被告に防御の範囲を明示するのがこの規定の趣旨であると考える。
イ 請求の原因とは、請求の趣旨を特定の権利主張として構成するのに必要な事実である。
  この規定の趣旨はどこにあるのか、検討する。
  この点、審判の対象である訴訟物は、実体法上の権利関係の存否そのものである(旧訴訟物理論)。なぜなら、基準が明確であるし、実体法との調和をはかることができるからである。
  そして、請求の趣旨の記載のみでは、法律効果のみが明示されるにとどまり、それを基礎付ける法律要件は明らかになっていない。これでは、被告はいかなる法律要件について防御を行えばよいか、明らかでない。また、裁判所はいかなる法律要件について訴訟指揮(148条1項)を行えばよいか明らかでない。
  そして、請求の原因が記載されることにより、被告・裁判所は法律要件が明らかになる。
  そこで、請求の原因は、被告の防御の主張立証の対象となる法律要件を明らかにし、裁判所に訴訟指揮の対象を明らかにするのがその趣旨であると考える。
2 訴状の不備を理由とする却下について
 訴状について、原告が不備を補正しない時は、裁判長は命令で訴状を却下する(137条2項)。
1) 裁判の形式について
  命令とは、裁判長が手続や訴訟指揮に関する事項について終局的に下す判断である。
  まず、命令については、必ず口頭弁論が開かれなければならないという必要的口頭弁論の原則は適用されない(87条1項ただし書参照・任意的口頭弁論)。
  また、裁判長は、相当と認める方法で告知すれば足りる(119条)。
  この趣旨は、手続上の事項であり、わざわざ口頭弁論を開くまでもないからである。
2) 効果について
  まず、命令については、140条の場合と異なり、確定判決の効力である既判力はみとめられない。
  ここに、既判力とは、確定判決に与えられる後訴での拘束力ないし通用力である。
  また、原告は、裁判長の命令に対して、即時抗告をすることができる(137条3項)。
  この趣旨は、訴状の却下に対する原告の不服申し立ての機会を担保することにある。
                                    以上

・第1印象「昔の答練で書いたな」
・反省等 これは結構書けたほうだと思う。昔の公開答練で似たような問題を書き、ひどい評価を食らったことがあった。
 今年は「若手合格者ができることは負けない」がコンセプトであったので、必要的記載事項の定義はすべて書いた。しかし、今読み返してみると、「法定代理人」の定義が「訴訟上の代理人」の定義と間違えている。それに、「請求の特定」のキーワードが出ていない。不十分。

 後段で、命令については既判力があるのかよくわからなかったが、既判力の定義を思い出してみると、「確定判決」に対して与えられるものだと分かったので、不要と考えた。

・今後に向けて 民訴は分けわからん問題が平気で出るので、現場では条文、定義、趣旨くらいしか武器にならない。これから基本書を読むかもしれないが、この3つは常に負けないようにしておかなければならない。
・200問の答案構成はやりすぎだが、こういう問題では強い。100〜150問くらいは流れを押さえておこうと思う。

 平成18年刑事訴訟法 成績B(自己評価C〜E)

第 2 問
 甲は,交差点において赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,通行人を死亡させたとして,危険運転致死罪で起訴された。公判において,検察官は,事故を目撃したAを現場に立ち会わせて実施した実況見分の結果を記載した司法警察員作成の実況見分調書の証拠調べを請求したところ,甲の弁護人は,「不同意」との意見を述べた。
 その実況見分調書には,①道路の幅員,信号機の位置等交差点の状況,②Aが指示した自動車と被害者の衝突地点,③甲の自動車が猛スピードで赤色信号を無視して交差点に進入してきた旨のAの供述,が記載されていた。
 裁判所は,この実況見分調書を証拠として取り調べることができるか。

(出題趣旨)
 本問は,交通事故事件において証拠上重要な役割を負う実況見分調書を素材として,実況見分における立会人の指示説明の性質とその証拠能力に関する基本的な理解を問うことによって,伝聞証拠に関する刑事訴訟法の基本的な知識の有無と具体的事案に対する応用力を試すものである。


1 本問の実況見分調書は書面であり、公判廷外の供述証拠で供述内容の真実性立証のために用いられるものである。そうすると伝聞証拠であり、証拠能力が認められないのが原則である(320条1項)。
 そもそも、供述証拠は知覚・記憶・表現叙述の過程を経て公判廷に届くため、その過程に誤りが生ずる恐れがある。そこで、当事者の反対尋問(憲法37条2項)によりチェックすることで誤判を防止するのが伝聞法則の趣旨であると解する。
 しかし、すべての伝聞証拠の証拠能力を否定したのでは、真実発見の要請(1条)に反する。そこで、証拠とする必要性があり、真実性の状況的保障があれば、証拠能力も認められる(321条以下。伝聞例外)。
1)本問では実況見分調書の取調べが請求されている。そこで、実況見分調書は321条3項の検証に関する規定の適用により例外的に証拠能力が認められるか、検討する。
  思うに、同条項が緩やかな要件で証拠能力を認めた趣旨は、①検証調書は専門的知識を有する者により作成されたものであるから、内容が信頼できるものであること、②複雑な内容となるため、書面のほうが当事者にとって分かりやすいことにある。
  そして、検証調書と実況見分調書は強制処分か任意処分かの違いしかないから、実況見分調書でも同条項の趣旨は妥当する。
  そこで、実況見分調書にも321条3項は適用されると解する。
2)また、同条の「真正に作成されたものであることを供述したとき」とは、名義の真正のみならず、作成内容の真実性を供述した場合も含むと解する。
2 ①の部分について
  本問の①の部分は、321条3項の要件を満たすだけで証拠能力は認められるか。
 本問では、道路の幅員、信号機の位置等交差点の状況が書かれているものである。そして、本当にこれらの状況が認められるかは、実況見分調書を作成した警察官に聞けばたりる。 したがって、321条3項の要件を見たすだけで証拠能力は認められる。
  よって、321条3項の要件を満たせば、証拠として取り調べることができる。
3 ②の部分について
  本問では321条3項の要件を満たすだけで証拠能力は認められるのか、検討する。
  本問ではAが衝突地点を指示しているので、Aに本当にその地点で衝突したのかを反対尋問でチェックすべきとも思える。
  しかし、Aの指示は司法警察員実況見分すべき場所を指定しているに過ぎない。そうすると、Aの指示は実況見分のきっかけないし動機である。したがって、本当にAが支持したのか否かは、司法警察員に尋問すれば足りる。
  以上により、321条3項の要件を満たすだけで証拠として取り調べることができる。
4 ③の部分について
  本問では甲が交差点に侵入してきた旨のAの供述が記載されている。そこで、Aに対する反対尋問が必要であり、321条3項の要件のみでは証拠能力が認められないのではないか。伝聞と非伝聞の区別を検討する。
1) 思うに、前述の伝聞証拠排除の趣旨からすれば、伝聞法則が適用されるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられると解する。
   本問では甲が本当に猛スピードで赤信号を無視して交差点に進入したのかを、Aに対する反対尋問でチェックする必要がある。そうすると、伝聞法則の適用があり、321条3項のみならず、321条1項3号の要件を満たす必要がある。
2) 具体的にはAが供述不能であること、Aの供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと、Aの供述が特に信用すべき状況の下になされたことが必要である。
   加えて、Aの署名もしくは押印も必要であると考える(321条1項柱書)。 なぜなら、Aから司法警察員の伝聞過程の真実性を担保する必要があるからである。
3) 以上の要件を満たせば、裁判所は証拠として取り調べることができる。
                                      以上
・第1印象「塾長がヤマを張ったところだ」
・反省等 この答案は12通のなかでは書けた方だと思う。「若手合格者が書ける部分は、分厚く書く」というのが今年のコンセプトであったので、1の部分(伝聞法則の意義&実況見分調書の論証)は気合を入れて書いた。
 反省点があるとすれば、②の部分で、「現場指示」のキーワードを出せなかったこと。冒頭で「厳格な証明が必要なこと」を明示できなかったことである。あと、①②の部分で321条3項のみで足りるのかという部分は、これで説明しきれているのか、不十分な気持ちで書いていた。
 ③の部分「署名押印の要否」については最新判例の知識。やはり直前期に最新判例のチェックは必須。
・今後に向けて 伝聞法則、現場指示、現場供述等、基礎的なチェックは怠らない。最新判例はチェックする。
 

 平成18年刑事訴訟法 成績B(自己評価C〜E)

第 1 問
 警察官Aは,甲に対する覚せい剤譲渡被疑事件につき,捜索場所を甲の自宅である「Xマンション101号室」,差し押さえるべき物を「取引メモ,電話番号帳,覚せい剤の小分け道具」とする捜索差押許可状を得て,同僚警察官らとともに,甲宅に赴いた。
 玄関ドアを開けた甲に,Aが捜索差押許可状を呈示して室内に入ったところ,その場にいた乙が,テーブル上にあった物をつかみ,それをポケットに入れると,ベランダから外に逃げ出した。これを見たAらは,直ちに乙を追い掛け,甲宅から300メートルほど離れた路上で転倒した乙に追い付いた。Aは,乙に対しポケット内の物を出すように要求したが,乙がこれを拒否したため,その身体を押さえ付けて,ポケット内を探り,覚せい剤粉末が入ったビニール袋を発見した。Aは,乙を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕し,その覚せい剤入りビニール袋を差し押さえた。
 以上の警察官の行為は適法か。

(出題趣旨)
 本問は,場所に対する捜索差押許可状を執行する際,その場に居合わせた者に対し,いかなる場合に,どのような措置を実施することができるかを問うことにより,令状による捜索・差押えの効力が及ぶ範囲とその根拠について,刑事訴訟法の基本的な知識及び理解力並びに具体的事案に対する応用力を試すものである。


1 Aが捜索差押許可状を呈示した行為は222条1項・110条によるものであり、適法である。
2 本問で乙はベランダから逃げ出したため、Aは乙に追いついたあと、ポケット内のものを出すよう要求しているが、乙が拒んだため、Aは乙のポケット内を探っている。
1)この行為は本件の捜索差押許可状によるものとして適法にならないか、検討する。
 ア 本問の捜索差押許可状は捜索場所を「Ⅹマンション101号室」としているにとどまる。そこで、本件捜索差押許可状で乙の身体を捜索できないのではないか。場所に対する捜索差押許可状(218条1項)でその場に居合わせた者の身体を捜索できないか、検討する。
   思うに、218条1項は令状主義(憲法33条35条)の現れであるところ、令状主義の趣旨は捜査に責任を持たない裁判官の事前のチェックを受けることで、強制処分による国民の不当な人権侵害を防止することにある。
   かかる趣旨からすれば、捜索できる範囲も事前にチェックがなされた場所に限られ、その場に居合わせた者の身体は捜索できないのが原則である。
   しかし、差押の目的物を隠したと見られる事態が発生したにもかかわらず、この者の身体を捜索できないのでは、真実発見の要請(1条)に反する。
   そこで、その場に居合わせた者が目的物を隠したと見られる事態が発生した場合には、当該令状の効力として捜索することができると解する。
   本件では、乙はAが室内に入ったとたんに、テーブルにあった物をつかみ、ポケットにいれている。そうだとすると、乙はAにみつかってはまずい物を隠したとみることができる。したがって、その場に居合わせた乙が目的物を隠したと見られる事態が発生したといえる。
   よって、例外的に乙の身体を捜索できるとも思える。
 イ しかし、本件捜索差押許可状は、捜索場所を「Ⅹマンション101号室」としている一方で、乙の身体を捜索した場所は、ここから300メートル離れている。
   そして、前述の令状主義の趣旨からすれば、捜査官は、捜索場所として記載された場所および、その周辺の場所しか捜索できないものと解する。
   本件では、捜索場所から300メートルという生活空間を異にする場所でAの行為がなされている。したがって、捜索場所として記載された場所および、その周辺でなされたとは言えない。
 ウ したがって、本件のAの行為は捜索差押許可状の効力として適法とはならない。
2)もっとも、Aは乙にポケットの中の物を出すように要求しているため、職務質問を行なったといえる(警職法2条1項)。そこで、職務質問に伴う所持品検査として適法にならないか。所持品検査が相手方の承諾なくして行える場合があるか、検討する。
ア 思うに、所持品検査は職務質問を効果的にするものとして、警職法2条1項により認められるものと解する。
  そして、任意手段の職務質問に付随しておこなわれるものであるから、所持品検査も相手方の任意の協力によるべきなのが原則である。
  もっとも、犯罪の予防鎮圧という行政警察目的を達成するためには、相手方の承諾なくても所持品検査ができる場合を認める必要がある。
そこで、捜索に至らない程度の行為は相手方の承諾無くてもできるものであると解する。そして、①所持品検査の必要性緊急性、②これにより侵害される個人の法益とこれにより得られる公益を比較考慮したうえで、具体的事案のもとで相当と認められる場合には適法になるものと解する。
イ 本件で、Aは乙のポケット内を探っているが、ポケット内のすべてを見たわけではなく、捜索に至らない程度の行為ということができる。
また、乙はAらがやってくると同時にテーブル上にあったものをつかんで逃げている。そうだとすれば、何らかの犯罪に関する物を所持している可能性が高く、これを確認する必要性がある。さらに、乙はすでに300メートルも逃げてきているのであり、ここで乙のポケット内を検査しなければ乙は逃げてしまい、二度と検査することはできなくなる。そうすると、所持品検査の緊急性もある(①)。
この点、確かにAがポケットのすべてを確認しようとしたのであれば、乙のプライバシー侵害の程度が大きく、相当ということは出来ないといえる。
しかし、Aが探ったのは、乙がつかんで逃げた物を取り出そうとするだけであり、ポケット内のものすべてを出そうとしたのではない。そうだとすると、乙のプライバシー 侵害の程度は軽微であるといえる。
他方で乙には覚せい剤の所持罪の疑いが持たれていたものである。そして、覚せい剤は社会的害悪の強いものであり、これを摘発することは公益の維持に資するものである。したがって、所持品検査により得られる公益は大きいものといえる。
以上のことからすると、乙のポケットを探る行為は所持品検査として具体的事案の下で相当な行為といえる(②)。
ウ よって、Aが乙のポケットを探った行為は適法である。
3 また、Aが乙を現行犯逮捕した行為は犯罪の現行性、時間的場所的接着性の要件を満たす。したがって、212条1項によるものとして適法である。
4 さらに、Aが覚せい剤入りビニール袋を差し押さえた行為は220条によるものとして適法である。なぜなら乙の逮捕と同時に行っているため「逮捕する場合」の要件を満たすし、覚せい剤は乙の手元にあったのだから、「逮捕の現場」として場所的要件を満たすからである。また、乙は覚せい剤所持により逮捕されているのだから、220条の物的範囲の要件も満たすからである。
5 以上により、本件警察官の行為は適法である。
                                    以上

・第1印象「ポケット内を探った行為をどう処理すべきかが分からない」
・反省点 ポケット内を探った行為につき、所持品検査で処理してしまった。他の再現答案を読んでいると、「必要な処分」で処理している答案が多い。第2問は普通に書けたので、B評価に下がったのはこの部分が原因と思われる。
答案構成中、平成元年の第1問(捜索差押令状を持って捜索を開始したが、出て行こうとした者のバックを調べた事案)で、捜索→所持品検査の流れの答案例があったことが、頭から離れなかった。

一方で「捜索として」としながら、他方で「捜索に至らない行為」としている。論理矛盾があることが明らか。

他の再現答案へのコメントにおいて、「捜索は適法。差押えは(列挙物でないので)そのままじゃ不可。でも現行犯逮捕に伴う差押えとしてOK」という流れにすべきというものがあった。

平成18年商法 成績B(自己評価A〜B)

第 1 問
 Aは,個人で営んできた自動車修理業を会社形態で営むこととし,友人Dにも出資してもらい,甲株式会社を設立した。甲社は,取締役会及び監査役は置くが,会計参与及び会計監査人は置かないものとされ,取締役には,Aのほか,以前からAに雇われていた修理工のB及びCが選任されるとともに,監査役には,Aの妻Eが選任され,また,代表取締役には,Aが選定された(以上の甲社成立までの手続には,何ら瑕疵はなかった。)。
 ところが,甲社では,取締役会が1回も開催されず,その経営は,Aが独断で行っていた。そのため,Aは,知人Fから持ち掛けられた事業拡張のための不動産の購入の話にも安易に乗ってしまい,Fに言われるまま,手付名目で甲社の資金3000万円をFに交付したところ,Fがこれを持ち逃げして行方不明となってしまい,その結果,甲社は,資金繰りに窮することとなった。
 1  甲社の株主であるDは,A,B,C及びEに対し,会社法上,それぞれどのような責任を追及することができるか。
 2  AがFに3000万円を交付する前の時点において,この事実を知った甲社の株主であるD及び監査役であるEは,Aに対し,会社法上,それぞれどのような請求をすることができたか。

(出題趣旨)
 本問は,小規模な取締役会設置会社において,代表取締役が会社の規模に比して高額な契約を独断で締結したところ,相手方の債務不履行により会社に多額の損害が生じた場合について,代表取締役,他の取締役及び監査役の会社に対する任務懈怠責任及び株主を第三者とする損害賠償責任並びに株主及び監査役差止請求権の有無及び要件等を的確に理解し,当該事例へ適切に当てはめることができるかを問うものである。

1 小問1について
1)Aに対する請求について
 本問のAの行為により、株主Dは自己の保有する甲社株式の株価が下がるという損害を受けているものと思われる。
ア そこで、429条1項によりAに対して損害賠償請求をすることはできるか、検討する。
 ア)本件でDは株主であるが、株主も「第三者」にあたるか、同条の法的性質を検討する。
   思うに、同条の趣旨は、株式会社が社会で重要な地位を占めていること、およびその業務執行が取締役に委ねられていることから、取締役の責任を加重することで第三者を保護することにある。そうだとすると、株主であっても取締役の行為から保護する必要性は変わらないから、同条による保護の必要性は存在する。そこで、株主も「第三者」に含まれると解する。
   本問のDも株主であり、「第三者」の要件を満たす。
 イ)では、Aに「悪意または重大な過失」があったといえるか、その対象を検討する。
   私見によれば、悪意重過失の対象を不法行為の事実と考えると第三者の救済される場面が減少する。これでは同条の趣旨に反する。そこで、任務懈怠について悪意重過失であれば足りると解する。
   本問ではAは不動産購入の話に安易に乗ってしまい、慎重に行うべき業務執行をなしていない。そうすると任務懈怠があったといえ、またこれについてすくなくとも重過失がある。よって、要件を満たす。
 ウ)しかし、本問でDが受けた損害は会社が損害を受けたことにより間接的に生じたものであり、間接損害である。そこで、「損害」に間接損害も含まれるか検討する。
   思うに、前述の趣旨から、第三者保護のため、広く間接損害も「損害」に含まれると解する。
   本問でもDの損害は「損害」に含まれる。
 エ)よって、DはAに対して損害賠償責任を追及できる。
イ また、Dは甲社がAに対して有する損害賠償請求権を代位して責任追及できる(423条1項・847条1項3項)。この趣旨は、会社が取締役に責任追及しない場合に、株主が直接責任追及することで、会社の損害を直接的に回復する点にある。
ウ さらに、Dは株主総会で、Aの損害を填補することなく、Aを解任することができる(339条1項2項)。この趣旨は、取締役を業務執行から排除することで、会社の健全性を実現することにある。
2)BCに対する請求について
 AはBCに対して損害賠償責任を追及することが考えらえる(429条1項)。
 ここで、BCに任務懈怠が観念できるか、検討する。
 確かに、代表取締役でない以上、任務懈怠は観念できないとも思える(349条1項ただし書き)。しかし、取締役は、他の取締役の業務執行を監視監督する責任を負う。これは取締役会の構成員という地位に基づくものである(362条2項2号)。
 また、非上程事項でも、監視義務を負う。なぜなら、取締役は各々取締役会を招集し、その適法性をチェックできるからである。
 本問では「取締役会が1回も開催されなかった」ものである。そして、CDは
これを取締役会に報告すべきであったのだから、任務懈怠があり、少なくとも重過失がある。
 よって、AはCDに対して損害賠償責任を追及することができる。
3)Eに対する請求について
 DはEに対して損害賠償責任を追及できるか、検討する(429条1項)。
 まず、不動産の購入という妥当性についての監査は監査権限(381条1項)に含まれるか。
ア 思うに、経営に関与しない監査役には経営の妥当性監査は権限外であると解する。もっとも、善管注意義務違反(330条・民法644条)に該当する行為であれば、結局適法性監査となり、監査対象になると解する。
イ 本問では、明らかに不当な不動産購入行為をAが行っている。これはAの甲社に対する善管注意義務違反があったといえ、適法性監査の対象になる。したがって、これを見   
逃したEには任務懈怠があるし、これについて重過失がある。よって、DはEに損害賠償責任を追及できる。
2 小問2について
1)Dについて
 DはAに対して、不動産を購入しないように請求することができる(360条)。
 なぜなら、Aの行為は「法令・・・に違反する行為」であるし、これにより甲社に「回復することのできない損害」(3項)が生ずるおそれがあるからである。
2)Eについて
EはAに対して、不動産を購入しないように請求することができる(385条)。
 なぜなら、法令違反の行為であるし、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるからである。
 これらの規定の趣旨は、取締役の不法な行為を事前に防止して、会社の経営の健全性を事前に確保することにある。
                                     以上

自己評価は追ってコメントします。

 平成18年刑法 成績A(自己評価B)

第 2 問
 甲は,Xが個人として経営する電化製品販売店Y店舗において,同店舗の商品管理その他業務全般を統括する店長乙に対し,不正に取得した信販会社A発行で名義人Bのクレジットカードを使用する正当な権限がないのに,これがあるように装って同カードを呈示し,30万円のパーソナルコンピュータ1台の購入を申し込み,B名義で売上票に署名し,これを乙に渡した。
 乙は,売上票を受け取った後,甲がBとは別人であって甲に同カードを使用する正当な権限がないことに気付いた。しかし,乙は,低迷しているY店舗の販売実績を上げるとともに店長としての地位を保とうと思い,甲に対する売上げを同カードによる正規の売上げとして処理することに決め,そのパーソナルコンピュータを甲に引き渡した。そして,乙は,信販会社Aの担当者Cに対し,B名義の署名のある売上票を送付して,甲に対する売上げは同カードを使用する正当な権限のない者に対する売上げであるのに,同カードを使用する正当な権限のある者に対する売上げであるように装い,代金の立替払を請求し,その旨誤信したCをして,信販会社A名義の普通預金口座からX名義の普通預金口座に30万円を振り込ませた。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。

(出題趣旨)
 本問は,商品販売店店長が,他人名義のクレジットカードを使用して商品を詐取しようとした者に対し,そのカードの不正使用に気付きつつ商品を渡すとともに,信販会社からその代金の立替払を受けたという事例を素材として,事案を的確に把握してこれを分析する能力を問うとともに,詐欺罪,業務上横領罪,背任罪等に関する理解とその事例への当てはめの適切さを問うものである。

1 甲の罪責について
1)甲がBのクレジットカードを不正に使用する権限が無いのにこれを使用した行為について、詐欺罪(246条1項)の成立を検討する。
ア この点、加盟店のYとしては、不正の使用と知った場合、カード会社を害さないように取引を拒否する信義則上の義務を負う。そうだとすると、使用権限がないにもかかわらず使用する行為は、財物の交付に向けられた欺罔行為といえる。
  しかし、乙は甲にカードを使用する正当な権限が無いことを知った上で、パーソナルコンピュータを引渡している。そうだとすると、欺罔行為に基づく財物の交付があったとはいえない。
イ したがって、甲の行為に詐欺未遂罪が成立する(250条・246条1項)。
2)甲がB名義で売上票に署名した行為について、有印私文書偽造罪(159条1項)の成立を検討する。
  まず、売上票は売買代金の支払義務の発生を確認する文書であり、「権利、義務・・・に関する文書」といえる。また、甲は名義人であるBとの人格の同一性を害したといえるから「偽造」といえる。さらに、甲はBという「他人の・・・署名を使用して」いるし、乙に見せるという「行使の目的」もある。以上により、甲の行為に有印私文書偽造罪が成立する。
3)しかし、甲が上記文書を乙に渡した行為について偽造私文書行使罪の未遂犯(161条2項)が成立するにとどまる。なぜなら、乙は正当な権限がないと気づいたうえでコンピュータを引渡しており、真正な文書と誤信したとはいえないからである。
4)よって、甲の行為に①詐欺未遂罪、②有印私文書偽造罪、③偽造私文書行使罪の未遂犯が成立する。そして、②と③は目的・手段の関係にあり、牽連犯(54条1項後段)になる。そして、これらと①も目的・手段の関係にあるので、牽連犯として処理されると考える。
2 乙の罪責について
1)乙は甲がコンピュータを受取る権限が無いと知っているにもかかわらず、これを引渡している。
ア そこで、甲のこの行為に業務上横領罪(253条)が成立するか、検討する。
  まず、乙はXという「他人の物」を占有している。また、乙・X間には雇用契約民法623条)に基づく委託信任関係がある。さらに、乙は店長という社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務を行う者であり「業務」の要件も満たす。
  しかし、乙はY店舗において「商品管理その他業務全般を統括する」強大な地位にあったのである。そうだとすると、乙は店舗内の商品について処分権限が与えられていたといえる。したがって、乙が正当な権限のない者に対して商品を引渡すことは、いまだその権限の範囲内といえ、委託の趣旨についてその物について権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思の発現行為とはいえない。そうすると、不法領得の意思の発現があったとはいえず、「横領」の要件を満たさない。
  よって、乙の行為に業務上横領罪は成立しない。
イ では、乙の行為に背任罪(247条)が成立するか、検討する。
  まず、乙はXが経営する店舗の店長であり、「他人のためにその事務を処理する者」である。また、乙・X間には雇用契約という法律上の委託信任関係がある。そして、正当な権限のない者に対して商品を引渡す行為は事務処理上有する権限を濫用して本人に財産上の損害を加えるべき行為であり「その任務に背く行為」にあたる。
  この点、「財産上の損害」は、経済的見地から検討すべきである。なぜなら、法律上債権を有していても、その実現可能性がないなら本人は害されるからである。本問ではX名義の普通預金口座に30万円が振り込まれているが、これは違法行為により支払われている。そうすると本人は経済的にみて損害をうけているので「財産上の損害」がある。
  また、図利加害目的は専ら本人のために行為した場合に限り、これを否定されるものと考える。本問では「Y店舗の販売実績をあげるとともに、店長としての地位を保とうと思っている」のであるから、専ら本人のために行為した場合とはいえない。そうすると、図利目的があり「自己・・・の利益を図り」の要件を満たす。
  よって、乙の行為に背任罪が成立する。
2)乙がB名義の署名のある売上票をCに送付した行為について、Cをして真正文書と誤信させたといえるから、偽造私文書行使罪(161条1項)が成立する。
3)乙が代金の立替払いを請求した行為について、Aに対する詐欺罪が成立しないか、検討する。
ア この点、乙はX名義の普通預金口座に振り込むように請求しており、預金債権の取得として2項詐欺の成立を検討すべきとも思える。しかし、口座の名義人はただちに現金を引き出すことができるから、現金を取得したといえる。よって1項詐欺の問題として検討すべきである。
イ そして、乙は正当な権限のない者による売上げであることを告知せずに支払を請求しており、現金の支払という処分行為に向けられた欺罔行為がある。また、Cは乙の欺罔行為に基づいて錯誤に陥っており、これに基づいて30万円という財物を振り込んでいる。そうすると、財物の交付およびその移転がある。以上により詐欺罪が成立する(246条1項)。
4)よって、乙の行為に①背任罪、②偽造私文書行使罪、③詐欺罪が成立する。そして、②と③は目的・手段の関係にあるので牽連犯として処理される。また、これらと①は社会通念上別個の行為なので、併合罪(45条前段)として処理される。
                                    以上

・第1印象「過去問のアレンジか、いけそう」
・反省等 この問題は12通の中でベスト。書ききったときは気持ちよかった。
 背任、業横、詐欺、偽造等の構成要件要素はすべて暗記していたので、それに当てはめただけ。
 詐欺はH5−2、横領と背任はH8−2を検討していたので、本番でも楽に書けた。
 しかし、財産上の損害、図利加害目的の構成要件要素の暗記が不十分だったので、本番では理由をつけずに結論だけ書いた。反省。

・未来に向けて 各論は構成要件要素とその具体例の暗記に尽きると思う。「刑法各論に攻めも守りもない」という合格者のアドバイスは名言だと思う。
 地道にやって、さらに弱点をつぶしていくだけ。

 平成18年民法 成績E(自己評価F〜G)

第 1 問
 Aは,Bに対し,A所有の甲絵画(時価300万円。以下「甲」という。)を200万円で売却して引き渡し,BはAに代金全額を支払った。Bは,その1か月後,Cに対し,甲を300万円で売却して引き渡し,CはBに代金全額を支払った。現在,甲はCが所持している。AB間の売買は,Bの詐欺によるものであったので,Aは,Bとの売買契約を取り消し,Cに対し甲の返還を求めた。
 1(1 ) Aの取消しがBC間の売買契約よりも前になされていた場合,AC間の法律関係はどうなるか。考えられる法律構成を2つ示し,両者を比較しつつ,論ぜよ。
  (2 ) (1)の場合において,Cが甲をAに返還しなければならないとき,BC間の法律関係はどうなるか。
 2  Aの取消しがBC間の売買契約よりも後になされた場合,AC間の法律関係はどうなるか。考えられる法律構成を2つ示し,両者を比較しつつ,論ぜよ。なお,これらの構成は,1(1)で示した2つの構成と同じである必要はない。

(出題趣旨)
 本問は,動産売買契約の詐欺による取消しと第三者との関係について,取消しの前後の各場面において,考えられる法律構成(即時取得,対抗問題,詐欺による取消し前の善意の第三者保護など)から2つを提示し,比較検討する能力を問うものである。また,取消し後の第三者が目的物を返還しなければならない場合における売主との関係(売主の担保責任など)につき,提示された法律構成との整合性を保ちつつ論じることも求められる。


1 設問1(1)について
 Aとしては、Cに対して甲の所有権に基づく引渡請求をすることが考えられる。これに対してCとしては、自己が確定的に甲の所有権を取得したという反論をすることが考えられる。これについては①Cが96条3項「第三者」に当たるという法律構成、②192条の即時取得により甲の所有権を取得したという法律構成が考えられる。
1)①について
 Cは「第三者」として96条3項により確定的に所有権を取得したという反論をすることができるか、検討する。
 思うに、同条の趣旨は、取消の遡及効(121条本文)により害される者を保護することにある。かかる趣旨からすれば、「第三者」とは、取消された意思表示に基づき、新たな法律上の利害関係を取得した者をいうと解する。
 本問では、Cは、AB間の契約に基づきBに移転した甲の所有権について、新たに売買契約を締結している。したがって、Cは甲の所有権について新たな独立の法律上の利害関係を取得している。したがって、「第三者」にあたる。
 また、同条により保護されるためには文字通り善意であれば足り、無過失は不要と解する。なぜなら、被詐欺者にも一定程度帰責性があるため、第三者の保護要件を緩和してよいからである。
 さらに、対抗要件としての引渡(178条)は不要と解する。なぜなら、非詐欺者と第三者は前主後主の関係にあり、対抗要件を要求する理由がないからである。
 加えて、権利保護要件としての引渡も明文なき以上不要と解する。
 本件ではCがBの詐欺の事実につき善意であれば、「第三者」として自己が確定的に所有権を取得したと反論できる。
2)②について
 本件ではCの売買契約時にはBは所有者であったのだから、192条は適用されないとも思える。
しかし、同条の趣旨は、権利が無いのに存在するかのような外観を信頼した第三者を保護するという公信の原則にある。そうだとすれば、契約後に取消されて無権利となった場合も第三者を保護する必要性は変わらないから、同条が準用されると解する。
本問では、①の場合と異なり、Cが売買契約時にBの詐欺の事実について善意無過失であれば、Cは保護される。
また、①の場合と異なり、Cは占有を取得している必要がある。
よって、Cが売買契約時にBの詐欺の事実につき善意無過失であれば、甲の所有権を確定的に取得する。
3)以上の法律構成により、Cは自己が甲の所有権を確定的に取得したと反論でき、Aの請求は認められない。
2 設問1(2)について
Cが甲をAに返還しなければならない場合、BC間の売買は他人物売買になる(560条)。
1)まず、CはBに対して売買契約を解除(561条)し、代金の返還を請求できる。
2)また、Cは信頼利益について、損害賠償を請求できる(561条)。
3)加えて、Bが甲の所有権をCに移転できなかったのは、債務の不履行といえる。したがって、履行利益について損害賠償請求(415条)できる。
3 設問2について
 CはAに対して、確定的に甲の所有権を取得したとして、引渡しを拒むことが考えられる。この法律構成としては①94条2項の類推適用②178条により所有権取得の2つの法律構成が考えられる。
1)①について
 思うに、94条2項の趣旨は、権利が無いのにあるという外観を作出した真の権利者の犠牲の下、虚偽の外観を信頼した権利外観法理にある。
 そこで、①虚偽の外観があり②第三者が信頼し③真の権利者に帰責性があれば、第三者は保護されると解する。
 本問では、第三者のCは①の場合と異なり、悪意の場合には保護されない。しかし、非詐欺者のAは外観作出に帰責性は無く、この法律構成によることはできない。
2)②について
 思うに、取消しの遡及効(121条)は法的な擬制にすぎず、取消された法律行為も取り消しの時点までは有効である。
 そこで、取り消しによりB→A,B→Cという物権変動があったとして二重譲渡類似の法律構成により優劣を決すべきと解する。
  また、①の場合と異なり、Cは取消しについて悪意であっても「第三者」(178条)にあたり、引渡しを受ければ保護されると解する。なぜなら、事実の知不知で取扱いが異なると、画一的処理に取引の安全が害されるからである。
  しかし、対抗要件の不具備を主張しないことが信義(1条2項)に反する者は「第三者」に当たらず、保護されないと解する。
  本問ではCは対抗要件である引渡しを受けている。そこで、背信的悪意者で無い限り、「第三者」として甲の所有権を確定的に取得する。
  よって、②の法律構成によった場合、Cが背信的悪意者でない限り、Aは引渡請求をすることができない。
                                     以上

小問1と小問2を読み間違えています。
自己評価は追ってコメントします。